横浜地方裁判所 昭和25年(行)8号 判決
原告 土岐二十八
被告 金沢地区農地委員会
一、主 文
被告が別紙目録記載の土地について、昭和二十二年六月二十日なした買収計画は、これを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、原告は別紙目録記載の土地(以下本件土地と称する)の所有者であつたところ、被告(当時磯子地区農地委員会)は昭和二十二年六月二十日本件土地は訴外木村熊太郎、石井道蔵、石井仲吉等の小作地であるとし、自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当するものとし、農地買収計画をなし、同日記録縦覧期間を同年六月二十日から同年六月三十日迄と定め、その旨原告に通知してきた。しかし本件土地は公簿上地目が畑となつているけれども、元来宅地であつて、また原告は何人とも小作契約を結んだことがない。ただ訴外石井常吉に海苔干場として使用を許容したことがあり、同人が原告に無断で訴外石井道蔵、石井仲吉、木村熊太郎等に同じく海苔干場として使用を許容したに過ぎない。よつて右六月二十日の買収計画決定は違法な行政処分である。そこで原告は前記縦覧期間内に「買収除外方申請」と題する書面をもつて異議の申立をなしたところ、被告は同年七月八日「本件土地は海苔干場として認められない」との理由で、原告の異議申立を棄却し、同年八月二日原告にその旨の通知をなした。しかし原告としては前記六月二十日の買収計画には何としても承服し難いので、更に同年八月十一日不服申立書を提出したが、未だに訴願庁である神奈川県農地委員会において何等の裁決をしないから、ここに本訴を提起し、前記六月二十日の買収計画決定の取消を求めると述べた。
被告訴訟代理人は先づ本訴を却下すとの判決を求め、その理由として被告がなした本件買収計画決定に対しては記録縦覧期間内に原告より異議の申立があり、被告は昭和二十二年十月十三日異議申立棄却の決定をなし、同月二十八日原告にその旨の告知をなしたのであつて、これに対しては原告より訴願の提起がない。自作農創設特別措置法第四十七条の二の規定によれば行政処分の取消、変更を求める訴は処分のあつたことを知つた日から一ケ月以内にこれを提起しなければならずまた処分の日から二ケ月を経過したときは、訴の提起ができない旨規定があるが、本訴は前記異議申立棄却の決定の告知の日から約二年六ケ月を経過した昭和二十五年三月十四日提起せられたものであるから、不適法である。次に本案につき、原告の請求を棄却すとの判決を求め、答弁として、本件土地が原告の所有であつて、被告が原告主張のように昭和二十二年六月二十日本件土地について買収計画決定をなし、記録縦覧期間内に原告より異議の申立があつたことは認めるけれども、その余の原告主張事実は全部否認する。本件土地については昭和六年訴外木村熊太郎は大字平潟三十八番地土地の内三畝十七歩石井常吉は同土地の内二畝五分大字平潟五十四番地土地の内六歩石井道蔵は同土地の内二畝二十三歩石井仲吉は同土地の内二畝二十三歩を小作料はいづれも地租の代納をもつて充てる約にて原告より小作したものであつて現状は公簿面通り畑地であると述べた。(証拠省略)
三、理 由
先づ原告の本訴提起が適法か否かについて按ずるに被告が昭和二十二年六月二十日なした本件農地買収計画に対し、記録縦覧期間に原告より異議の申立があり、これに対し被告が同年七月八日右申立棄却の決定をなし同年八月二日頃原告にその告知をなしたことは一件記録殊に真正に成立したと認むべき甲第三号証および同第四号証によりこれを認めうる。更に同じく甲第五号証および原告本人の陳述によれば、昭和二十二年八月十一日頃原告より被告(当時磯子地区農地委員会)に宛て右異議申立棄却の通知に対し、本件土地は海苔干場であつて農地でないから本件買収計画は承服し難い旨の記載ある書面を提出したことを認めうべく、右書面の宛名は訴願庁たる神奈川県農地委員会となつておらずまた「訴願」という文字の記載はないけれども、異議申立棄却の決定に対し更に原処分庁に異議を申立てる途なく、また右書面によれば原告が右処分に対し不服であつて再審査を求める趣旨であることは、これを明瞭に認めうるから右書状の提出は訴願の提起と認めるのを相当とする。しかして行政庁の違法な処分により利益を害せられる者を救済するため、法令の規定により、訴願、審査の請求、異議の申立等が認められている場合には訴願、審査の請求、異議の申立等について裁決決定その他の処分があつた後行政訴訟の提起をなしうべきを本則とすること行政事件訴訟特別法第二条の規定に徴しまことに明瞭であるからこの場合においては、行政訴訟の提起期間は、原処分庁の処分の時より起算せず、訴願庁等の処分の時より、これを起算すべきこというをまたない。しかして原告の異議申立棄却の決定に対し原告より訴願の申立があつたこと前に説明したようであつて、これに対し訴願庁の裁決が未だなされないことも一件記録に徴し明かであるから原告の本訴提起はこの点において何等の違法がない。
次に本案につき按ずるに、昭和二十二年六月二十日原告所有の本件土地につき被告が原告主張のような買収計画をしたことは当事者間に争いがない。被告は本件土地については昭和六年頃原告と訴外木村熊太郎等との間に耕作を目的とする小作契約が成立したと主張するけれども、証人石井常吉、石井仲吉、石井道蔵、石井タカの各証言、原告本人訊問の結果ならびに検証の結果を綜合すると本件土地は原告の父が三十五、六年前に別荘を建てる目的で買受けたものであるが当時本件土地は塩田であつて、草が生い茂り低湿地であつたため約三尺程地盛をなしたが、今から十七、八年前石井常吉の申出により、同人に本件土地を海苔干場として使用を許容し、右常吉はその後原告の承諾を得ず本件土地の使用を木村熊太郎、石井仲吉、石井道蔵等に許容し、右四人でこれを毎年十一月頃から翌年三月頃まで専ら海苔干場として使用していたところ、戦時戦後にかけ食糧増産のため海苔干場に使用しない期間のみ原告の承諾を得ず、農作物の栽培をなしていたことを認めうべく、右認定に反する証人木村熊太郎の証言は信用しない。以上認定の事実によれば本件土地は右訴外人等の小作地でないこと明かであるから、被告が自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当するものとして、本件土地につきなした買収計画は失当である。
よつて右違法な処分の取消を求める原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のように判決する。
(裁判官 牧野威夫)
(目録省略)